門から玄関まで幅ニメートル、長さ1〇メートルほどの「通路」が家の東側に沿ってあったのと、駐車スペースの前に半坪ほどの「土」があったのが、園芸スペースとして使える場所だった。
それでも、その家に暮らしながらささやかな「庭」をどうつくっていくかが、大きな楽しみだったことを懐かしく思いだす。
木を植える話にも共通することだが、庭とは自分の家とまわりの家とをつなぐもの。
「柵からこっち側はウチの土地」と領土を主張するためだけの役割になってしまっては残念だし、もったいない。
あるいは、「ここは私のお城。
マイースイートーホーム。
どう?見て見て」と自慢するかのように庭を飾りたてるのも、はっきり言って野暮天だ。
自分は満足できても、周囲が詳易していることに気づかないのは情けない。
反対に、さりげなく、でも心のこもった庭を見ると、「どんなすてきな人が住んでいるんだろう」と気にかかる。
誤解しないでほしいが、「心の気持ちだ」というのは「完璧に手入れされた」という意味ではない。
心にかけながらほどよくほうってある庭が、いい味を出すように思う。
この感じ、なかなか実感してもらうのはむずかしいかもしれない。
映画の監督、Mさんは、この感じを「ちょっと荒れた感じの庭がいい」と表現している(『トトロの住む家』より)。
家と植物をいとおしく思うがためにこそ、人間の都合できれいに整えすぎたり手を入れすぎたりして、木に負担をかけることをためらう心根がうかがわれるからなのだという。
私は、この「ちょっと荒れた感じ」という言葉そのものがすてきだと思う。
私を最優先しない謙虚さも感じられる。
一方、完璧に整えて美しく飾られた家や庭には、人目を意識して「私」を主張したい気持ちがあるように思えてならない。
庭、あるいは家の周囲をどう使うかは、家以上に住む人の人となりを表すものなのではないだろうか。
そして、植物の植えられた庭は家とともに育ち、家と同じように住む人にいのちのモトを与えるものだと思う。
まずは三年計画で取りかかろう。
家を手に入れたら、家をいごこちよくつくっていく計画を立てると同時に、庭をいごこちよくつくっていく計画も立てたい。
最初から100パーセントをめざさないで、まあ三年計画くらいで考えよう。
家も同じだけれど、庭づくりの楽しみは過程にあるのだから。
いくつかの家を経てきた経験から思うに、庭づくりにはコツがあるようだ。
まず、全体の計画を立てながら、土にするところ、石畳にしたりレンガを積んだりするところを決める。
それから、郵便受けなどを置く場合はその場所も最初に決める。
家の際に植物を植えすぎると家が湿気るので、家の周囲は石畳にして植木鉢をいっぱい並べるようにするのもいいだろう。
あるいは、歩くための飛び石の場所を先に決めてしまってもいい。
なによりも、木を植えることにして、どこになにを植えるかを考えるとだいたいの庭の構成が決まってくるはずだ。
ここまでは、とにかくまず考えてしまう。
そのあとは、全体を考えるのはあとまわしにして、じっさいの作業をコーナーごとに攻めていけばいい。
これが二〇坪、三〇坪ある庭なら全体の木の配置を考え、いっきに造園するものだろう。
けれども、ここで考えているのは小さな庭やスペースのつくり方。
プロでなければできない造園ではなく、素人が楽しみながら整えていく庭づくりなのだから、最初から見映えを求めなくてもいいとしよう。
小さなスペースとはいえ、たとえば玄関の周囲とか、敷地の角とか、いくつかのコーナーに分けられるはず。
私の家の場合、いちばん最初に手をつけたのは通路と隣家の境目だった。
つぎが、通路の逆側にあたる家の東側の壁沿い。
つぎに玄関の周囲、そして門の周囲、最後に駐車スペースの前。
そのように、ひとつのコーナーを「だいたい七〇パーセントの出来かな」くらいに整えてからつぎのコーナーに移っていく。
庭の広さにもよるけれど、コーナーを考えるだけで一、二年はかかるだろう。
一応すべてのコーナーに手をつけたら、今度は一、二年かけて残りの三〇パーセントぶんを充実させていくのである。
では、ひとつのコーナーはどうやってつくればいいのだろう。
土に直接植物を植えるにしても、鉢植えで構成するにしても、まず、そのコーナーの中心となる植物を決める。
鉢植えなら思いきってうんと大きい鉢を置くと、その周囲を小さな鉢で囲むようにするだけでかたちが決まる。
なるべく高低をつけるように工夫しつつ、いくつかの植物や鉢がかたまりになるように配置するとリズムができて楽しくなる。
また、じょうずに植物が植えられている場所を見ると、だいたい土や鉢がほとんど見えないくらいにたくさん植えられているものだ。
ちまちま植えないで、どっさり植えてみよう。
植物は生きているのだから、場所にあわないと枯れることもある。
私は植えた植物の半分は枯れると見ている。
同じ植物でも、南側の庭では枯れても東側の庭では元気に育つこともある。
とにかく、植えてみたいものを惜しみなくどんどん植えることで、環境にあった元気な庭ができるものではないだろうか。
さて、さいきんよく見かける、小人やウサギの置物などを道路に向けて飾ってある庭。
趣味の問題ではあるが、人に誇示しているという意味で、成金趣味で庭に池をつくって太鼓橋をかけたり、
バカでかい燈寵を立てたりするのと似たり寄ったりではないか。
かわいいものが好きならば、道ゆく人に見せるのではなく、自分で庭を眺めるときに木陰にウサギを見え隠れさせたり、
庭仕事をしているときに石の陰に小人が寝ているのを眺めたりするほうが、ずっと心楽しいと思うのだが。
もし、あなたがこれから家を建てる人ならば、ぜひ家のつくりだけではなく、外まわりをどうするかを考えてほしい。
駐車スペースを確保しつつ、家をなるべく広く取ることだけを考えずに、家の周囲をどのように活かすか、となりや道路との境をどう違和感なく、
狭苦しくなくするか、を考えてみてほしいのである。
たとえば、30坪の敷地面積があるとして、建蔽率が六〇パーセントだとすると、18坪の家が建つ。
わかりやすくメートルで考えて、30坪はだいたい10〇平方メートルだから10×10メートルの土地だとしてみよう。
建蔽率どおりに考えると、8×7.5メートルの建築面積が取れる。
ということは、駐車スペースを考えないとすると、周囲をほぼ1メートルの幅で空けておけばいいわけだ。
たった1メートル。
このたった1メートルを、どう使うか、どう考えるか、で家の質が違ってくるように思う。
庭づくりのところで説明したように、私か前に住んでいた家は狭かった。
家が職場でもある私たち夫婦にとって、夫のアトリエと私の仕事部屋はかならず確保しなければならない。
すると、家族三人が日々、過ごすための空間は、八畳の居間と六畳のダイニングキッチン、六畳の寝室だけだった。
「せめて、居間の周囲に縁側でもあれば」「せめてダイニングキッチンがあと二畳あれば」「せめて納屋があれば」いろいろな「せめて」を切実に検討したこともある。
その家は26坪の土地に2.5坪の建築面積だったのだから、建設率は44パーセントだったのである。
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